余剰分析(令和元年度 経済学・経済政策 第10問)

問題

市場取引から発生する利益は、「経済余剰」といわれる。この経済余剰は、売り手にも買い手にも生じ、売り手の経済余剰は「生産者余剰」、買い手の経済余剰は「消費者余剰」と呼ばれる。

下図に基づき、需要曲線または供給曲線のシフトに伴う余剰の変化に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。なお、点Eが初期の均衡を示している。

余剰分析

a 所得の増加によって需要曲線が右方シフトすると、生産者余剰は減少する。

b 技術進歩によって供給曲線が右方シフトすると、消費者余剰は増加する。

c 好みの変化によって需要曲線が左方シフトすると、生産者余剰は減少する。

d 原材料費の上昇によって供給曲線が左方シフトすると、消費者余剰は増加する。

 

〔解答群〕

ア aとb

イ aとd

ウ bとc

エ cとd

 

解説

a:需要曲線が右方シフトした場合、生産者余剰は増加する。よって、正しくない。

b:正しい。

c:正しい。

d:供給曲線が左方シフトした場合、消費者余剰は減少する。よって、正しくない。

 

解答

自然失業率仮説(令和元年度 経済学・経済政策 第9問)

問題

自然失業率仮説に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a インフレと失業の間には、短期的にも長期的にも、トレード・オフの関係が成立する。
b 自然失業率とは、非自発的失業率と自発的失業率の合計である。

c 循環的失業の拡大は、実際のインフレ率を抑制する。

d 政府による総需要拡大策は、長期的にはインフレを加速させる。


〔解答群〕

ア aとb

イ aとd

ウ bとc

エ cとd

 

解説

a:自然失業率仮説によれば、短期にはインフレと失業のトレードオフが存在するが、長期にはインフレと失業のトレードオフは存在しない。長期的には物価上昇率に関係なく失業率が自然失業率に戻るというのがフリードマンの主張である。よって、正しくない。

b:自然失業率とは完全雇用状態における失業率のことであり、労働需要と労働供給が一致しているため非自発的失業は発生しないはずである。よって、正しくない。

c:循環的失業とは景気変動によって発生する失業である。短期フィリップス曲線において、失業率とインフレ率とはトレードオフの関係にあるため、循環的失業の拡大は実際のインフレ率を抑制する。よって、正しい。

d:自然失業率仮説によれば、政府による総需要拡大策によって物価上昇が起こると短期的に失業率が低下するものの、長期的には自然失業率に戻ることになり、インフレを加速させる。よって、正しい。

 

解答

流動性のわな(令和元年度 経済学・経済政策 第8問)

問題

総需要-総供給分析の枠組みで、財政・金融政策の効果と有効性を考える。
下記の設問に答えよ。

(設問1)
流動性のわな」の状況下にあるときのLM曲線は、下図のように水平になる。このときの総需要曲線に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

流動性の罠

〔解答群〕

ア 物価が下落しても、利子率が低下しないため、投資支出は不変である。した
がって、総需要曲線は垂直になる。

イ 物価が下落すると、利子率が低下して、投資支出が増加する。したがって、
総需要曲線は右下がりになる。

ウ 物価が下落すると、利子率は低下しないが、投資支出が増加する。したがっ
て、総需要曲線は右下がりになる。

エ 物価が下落すると、利子率は低下するが、投資支出は不変である。したがっ
て、総需要曲線は垂直になる。

 

(設問2)

流動性のわな」の状況下における財政政策と金融政策の効果と有効性に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

a 政府支出を増加させても、クラウディング・アウトによって総需要は不変である。したがって、物価水準も実質GDPも当初の水準から変化しない。

b 政府支出の増加は、総需要を拡大させる。その結果、物価水準が上昇し、実質GDPも増加する。

c 名目貨幣供給の増加は、総需要を変化させない。したがって、物価水準も実質GDPも当初の水準から変化しない。

d 名目貨幣供給の増加は、総需要を拡大させる。その結果、物価水準が上昇し、実質GDPも増加する。

〔解答群〕

ア aとc

イ aとd

ウ bとc

エ bとd

 

解説

(設問1)

流動性のわなとは、金融緩和によって利子率がこれ以上下がりようがないレベル(0%など)まで低下し、貨幣需要が無限大である状態のことをいう。流動性のわなの状況下では、貨幣需要の大小が利子率と無関係になるため、LM曲線は水平の形になる。

また、物価が下がってもすでに利子率が最低水準に達しているため利子率が低下せず、総需要が増えないため総需要曲線は垂直の形になる。

 

(設問2)

クラウディングアウトとは、政府による財政政策の拡大が利子率の上昇を招いてしまい、結果として民間の資金需要が抑制されて国民所得拡大の効果が薄れてしまう現象のことである。

a:流動性のわなの状況下に置いてはLM曲線が水平であり、クラウディングアウトは発生せず財政政策は有効である。よって、正しくない。

b:正しい。

c:正しい。

d:流動性のわなの状況下においては金融政策の効果は表れない。よって、正しくない。

 

解答

(設問1)ア

(設問2)ウ

 

為替レートの決定理論(令和元年度 経済学・経済政策 第7問)

問題

為替レートの決定に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

a 金利平価説によると、日本の利子率の上昇は円高の要因になる。

b 金利平価説によると、日本の利子率の上昇は円安の要因になる。

c 購買力平価説によると、日本の物価の上昇は円高の要因になる。

d 購買力平価説によると、日本の物価の上昇は円安の要因になる。

 

〔解答群〕

ア aとc

イ aとd

ウ bとc

エ bとd

 

解説

為替レートは2ヵ国間の通貨の交換比率であり、その決定においては2ヵ国間の経済状況の差が反映されるが、金利の違いに着目した理論が金利平価説、国ごとの物価水準の違いに着目する理論が購買力平価説である。

金利平価説とは、2ヵ国間で金利に差がある場合に、結局はどちらの通貨も同じ程度の利回りが得られるように為替レートが決まるという理論である。

たとえば米ドルが低金利で日本円が高金利の場合、投資家は収益性の低い米ドルを収益性の高い日本円に替えて利ざやを稼ごうとするが、結果として円がたくさん買われて円高が進み、最終的に米ドル・日本円のどちらでも運用益が同じになるまで為替レートの変動が続くという考え方である。

金利平価説に基づくと、日本の利子率の上昇は円の需要を増やして円高の要因となる。よって選択肢aが正しく、bは誤りである。

購買力平価説とは、同一の商品・サービスは同一の価格になるという「一物一価の法則」を前提としている。

たとえばビッグマック指数が有名だが、仮にアメリカでビッグマックの価格が1ドルで、日本での価格が100円だった場合、1ドルと100円で同じビッグマック1個が買えるので為替レートとしては「1ドル=100円」が妥当であるという考え方である。

購買力平価説に基づくと、仮に日本で物価が上昇してビッグマック1個が200円になったとしたら、為替レートは「1ドル=200円」と円安になる。よって選択肢cは誤りで、dが正しい。

 

解答

金融政策がもたらす影響(令和元年度 経済学・経済政策 第6問)

問題

日本経済は、日本銀行による金融政策から影響を受けている。貨幣に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。


a 中央銀行が買いオペを実施すると、マネタリー・ベースが増加する。

b マネー・ストックM1は、現金通貨、預金通貨、準通貨、譲渡性預金の合計である。

c マネー・ストックをマネタリー・ベースで除した値は「信用乗数」と呼ばれる。

d 準備預金が増えると、信用乗数は大きくなる。

 

〔解答群〕

ア aとc

イ aとd

ウ bとc

エ bとd

 

解説

a:買いオペとは公開市場操作手法のひとつで、日銀が市中銀行から国債や手形などを買い取って代金を支払うことで世の中の通貨量を増やすものなので、正しい。

b:マネーストック統計とは金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量を示す統計である。日本ではどこまでを「通貨」と見なすかによって、M1・M2・M3・広義流動性の4種類の指標が作成されている。このうちマネーストックM1は現金通貨+預金通貨であり、マネーストックM2が現金通貨+預金通貨+準通貨+譲渡性預金である。よって、正しくない。

c:信用乗数貨幣乗数ともいう)とはマネーストックがマネタリーベースの何倍あるのかを示す比率のことである。式で表せば「信用乗数マネーストック÷マネタリーベース」となるので、正しい。

d:銀行が日銀口座に保有する準備預金が増えると、信用乗数の低下につながる。よって、正しくない。

 

解答

乗数効果と均衡GDP(令和元年度 経済学・経済政策 第5問)

問題

下図は、開放経済における生産物市場の均衡を表す45度線図である。直線ADは総需要線であり、総需要ADは以下によって表される。

生産物市場の均衡を表す45度線図

(設問1)

総需要線がAD0からAD1にシフトするときの乗数効果はEB/EAによって表される。乗数効果を小さくするものとして、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

a 限界消費性向の上昇

b 限界消費性向の低下

c 限界輸入性向の上昇

d 限界輸入性向の低下

 

〔解答群〕

ア aとc

イ aとd

ウ bとc

エ bとd

 

(設問2)

均衡GDPは45度線と総需要線の交点によって与えられる。均衡GDPの変化に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 減税は、総需要線の傾きを急にすることを通じて、均衡GDPを増やす。

イ 政府支出の拡大は、総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やす。

ウ 輸出の減少は、総需要線の傾きを緩やかにすることを通じて、均衡GDPを減らす。

エ 利子率の上昇は、総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やす。

 

解説

(設問1)

乗数効果とは、政府支出など有効需要を増やしたときに、その増加額以上に国民所得が増加する効果のことをいう。

限界消費性向が低くなると、増加した所得は消費に使われず貯蓄にまわってしまうため、限界消費性向の低下は乗数効果を小さくする。

また、本問では開放経済を前提としているため外国との貿易を考慮すると、国内で増加した有効需要のうち一部は輸入の増加となって国外に流出してしまうことになる。よって、限界輸入性向の上昇は乗数効果を小さくする。

 

(設問2)

ア:減税は可処分所得に繋がり総需要を増加させる。総需要線が上方シフトすることによって均衡GDPが増加するので、正しくない。

イ:正しい。

ウ:輸出減少は総需要線が下方シフトして均衡GDPを減少させるので、正しくない。

エ:利子率の上昇は投資需要を減らし、総需要を減少させる。総需要線を下方シフトさせて均衡GDPを減少させるので、正しくない。

 

解答

(設問1)ウ

(設問2)イ

消費の決まり方(令和元年度 経済学・経済政策 第4問)

問題

消費がどのようにして決まるかを理解することは、経済政策の手段を検討する際にも、また、景気動向を予測する上でも重要である。一般に、消費の決定に所得が影響すると考えられているが、具体的な影響の仕方についてはいくつかの考え方がある。
消費の決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 恒常所得仮説では、一時金の支給によって所得が増加しても、消費は増加しない。

イ 絶対所得仮説によるケインズ型消費関数では、減税によって可処分所得が増加しても、消費は増加しない。

ウ 絶対所得仮説によるケインズ型消費関数では、定期給与のベースアップによって所得が増加しても、消費は増加しない。

エ ライフサイクル仮説では、定期昇給によって所得が増加しても、消費は増加しない。

 

解説

まずは、「絶対所得仮説」「恒常所得仮説」「ライフサイクル仮説」について簡単に整理しておきたい。

  • 絶対所得仮説とは、今期の消費支出は今期の所得水準に依存して決まるという考え方である。絶対所得仮説に基づけば、可処分所得が増加した場合はそれに比例して消費も増加することになる。
  • 恒常所得仮説とは、今期の消費支出は恒常所得(長期にわたって今後も獲得できるであろうと予想される平均的な所得)に依存して決まるという考え方である。恒常所得仮説に基づけば、一時的な要因によって得られた変動所得は消費を増加させないことになる。
  • ライフサイクル仮説とは、今期の消費支出は一生を通じて獲得できるであろう生涯所得に依存して決まるという考え方である。

ア:一時金の支給は変動所得であり、恒常所得仮説においては変動所得が増えても恒常所得が増えない限り消費は増加しないため、正しい。

イ:絶対所得仮説においては所得が増えれば消費も増える。減税は今期の可処分所得が増えることになるため、消費も比例して増えるはずである。よって、正しくない。

ウ:絶対所得仮説においては所得が増えれば消費も増える。給与のベースアップによって所得が可処分所得が増加すれば、消費も比例して増えるはずである。よって、正しくない。

エ:ライフサイクル仮説においては、個人の消費行動は生涯所得を念頭において決定される。定期昇給によって生涯所得が増えれば消費も比例して増えるはずである。よって、正しくない。

 

解答